事例
中田昇さん(68才)と麗子さん(64才)ご夫婦には子供がいません。ご夫婦はお二人とも公務員でご主人はすでに定年退職されております。昇さんが還暦を迎えるのを機にお互いが相手方に対して全ての財産を相続させる旨の遺言書の作成を望まれております。
早速、遺言書作成に必要な聞き取りを始めたところ、昇さんから、「私が先に死んで妻に財産が行くのは問題ないのですが、その後妻が亡くなったときはどのようになるのですか」という質問がありました。
「奥様が亡くなられた後は奥様の財産とご主人様の残余の財産は必然的に全て奥様のご兄弟に相続されますよ」とご説明したところ、昇さんが急に押し黙ってしまわれましたので、奥様にご事情を伺うと、「実は主人は私の兄弟姉妹と折り合いが悪くほぼ絶縁状態でして・・・」と奥様のご兄弟との内情を話してくださいました。
奥様の遺言に昇さんの残余財産だけでも昇さんのご兄弟に相続されるように書けないかとの質問もありましたが、麗子さんの相続財産と昇さんの相続財産の区別がつかない場合にはお互いの兄弟姉妹同士での話し合いになるとご説明させて頂いたところ「安心して死ねないね」と苦笑しておられました。
そこで、「遺言信託」を活用してみてはどうかと提案しました。
信託の設計
「遺言信託」の内容は、ご主人が死亡した場合は、奥様が受益権を取得する。その後奥様も死亡したときはそこで信託が終了して、残余の財産はご主人の兄弟姉妹が受け取ることになるというものです。
奥様についても同様の「遺言信託」の内容で作成します。受託者はご主人についてはご主人の甥、奥様については奥様の姪ということにします。信託監督人に司法書士がなり、信託財産と個人の財産は基本的に分別管理されることになりますので、ご主人と奥様の財産が混ざることもありません。
なお、この「遺言信託」は公正証書にすることにしました。万が一、遺言書の紛失があっても原本をいつでも閲覧、謄写できることと、「遺言信託」の成立自体を否定されることがないようにすること、配偶者が亡くなったときに、配偶者の兄弟姉妹の関与なしに手続きできるところにあります。
結果
「遺言信託」の作成後、ご夫婦とも最終的に受取ることとなるそれぞれの親族に「遺言信託」の内容を伝えたそうです。すると、受託者以外の甥、姪の数名が、ご夫婦の老後の世話や祭祀の協力してくれることになったと喜びのご連絡がありました。
老々介護の問題や認知症の問題もなんとかなりそうですとのことで、「遺言信託」を提案できて本当によかったと思っております。
(後日談として、昇さんと麗子さんは受託者とならない甥姪との間で任意後見契約を締結することとなりました。)